H¹T設計者インタビュー ベッドタウンの浦和、オフィス街の蒲田、それぞれの街の特性を捉え、ヒューマンファーストな空間づくりを

2020.11.17
インタビュー

「ヒューマンファーストタイム」がコンセプトのサテライト型シェアオフィス「H¹T(エイチワンティー)」。空間設計、家具、色調にまでこだわり、働く人が快適で、集中できる環境づくりを行っています。場所によって利用するワーカーの特性が異なることから、オフィス一つひとつが違う顔を持っているのもH¹Tの特徴です。今回はH¹T浦和と、H¹T蒲田の工夫について、それぞれの設計者である杉山 詩織氏と小田桐 知世氏にお話を伺いました。

杉山 詩織(写真・右)
野村不動産パートナーズ株式会社 建築インテリア一部所属
H¹Tを含むオフィスおよびビル共用部等の改修提案など、幅広くインテリアデザイン業務を担当。東京エリアを中心に店舗設計に携わり、H¹T浦和、H¹T千歳烏山などを手掛ける。

小田桐 知世(写真・左)
野村不動産パートナーズ株式会社 建築インテリア三部所属
H¹Tを含むオフィスおよびビル共用部等の改修提案など、幅広くインテリアデザイン業務を担当。神奈川エリアを中心に店舗設計に携わり、H¹T新横浜、H¹T横浜、H¹T青葉台、H¹T蒲田などを手掛ける。

「ここで働きたい」と思われる空間をつくる

お二人は店舗設計をご担当されているとのことですが、具体的にどんな仕事をされているのか教えてください。

杉山:内装の設計はもちろん、家具の選定や照明計画まで店舗づくりに必要なあらゆることを行っています。

小田桐:私も同じです。担当する店舗はエリアごとに分けられていて、杉山さんは東京、私は神奈川をメインで担当しています。

入社4年目の同期だそうですが、そもそもなぜ野村不動産パートナーズに入社したのでしょうか?

杉山:野村不動産グループは、オフィスビルやマンションだけでなく、複合施設や学校などを取り扱っていて、幅広いバリエーションの建物に携われると考えたからです。リビングライクな落ち着いた空間設計をオフィスに取り入れたりと、いろんな要素を掛け合わせたトータルデザインができるようになるのではと思いました。


(杉山さん)

小田桐:幅広い建物に携われるからという動機は私も同じです。また弊社は、管理物件を含めた幅広い工事を行なっていますが、既存の建物の資産価値を上げられるところにも魅力を感じています。テナントさまの意見を近い所で伺いながら、一緒になって想いを形にし、喜んでもらえることがやりがいです。

初めてH¹Tの設計を任されたとき、何から始めたのか教えてください。

杉山:自分自身がサテライト型シェアオフィスを利用したことがなかったので、まず使ってみるところから始めました。通常のオフィスと違ってシェアオフィスは、いろんな人が同じ時間に同じ空間を利用するのだと、改めて強く感じましたね。他人同士が近くにいても居心地がよい空間って何だろうと考えるようになりました。

小田桐:私もシェアオフィスを利用したことがなかったので、オープンしているH¹Tの見学から始めました。その際、緑が多く、デザインがオシャレなことが非常に印象的でした。ワーカーが「ここで働きたい」と思えるような場所を地元神奈川に増やしたいと強く思いましたね。


(小田桐さん)

ヒューマンファーストタイムな空間にするため、室内に「木漏れ日」

H¹T浦和とH¹T蒲田、それぞれを設計する際、とくにこだわったことを教えてください。

杉山:そもそもH¹Tのコンセプト「ヒューマンファーストタイム」とは、利用する一人ひとりのワーカーの幸せを何よりも優先するという考え方です。ただ仕事をするだけなら机や椅子、充電スペースさえあれば十分ですが、ワーカーが心地良い空間を作るためにはそれだけでは足りません。H¹T浦和では、このヒューマンファーストタイム実現のため、緑を取り入れることにこだわりました。

例えば、共有スペースには本物の植栽を大きく取り入れ、テーブルや壁もに木目調にしました。また、背の高い植栽を空間の中心に配置し、天井部分を明るくすることで、太陽に向かって植物が伸びていく様を再現しました。あえて植栽に強く光を当てることで、木漏れ日を感じてもらえるようにもしています。ありのままの自然の姿を取り入れることで、癒される空間になるのではと考えています。


(共有スペースの様子。植栽が多く、中心部には背の高い植物が配置されている)


(植栽に光が当たり、その影が壁に投影されている様子。木漏れ日をモチーフにしている)

小田桐:H¹T蒲田も、ヒューマンファーストタイムを強く意識した空間設計を行っています。他の店舗よりも若干、オープンスペースを広くとっていて、そのぶん大型のテーブルやソファーを入れ、ゆったりと作業ができるようにしています。


(H¹T蒲田オープンスペースの様子。ゆったりしたソファで作業ができる)

また、カプセルソファーを4つ、どれも窓に向けるように配置していています。それによって多くの人が利用するシェアオフィスでありながらも、開放感を感じられるようにしています。


(窓向きに配置され、開放感を感じられるカプセルソファー)

ボックス席も設けていて、ロールスクリーンを下げることで外の景色を遮断できるようになっています。シェアオフィス内にさまざまなバリエーションのワークスペースを用意しているので、好みや気分に合わせて使い分けてもらえると良いですね。

会社ではなく、あえてH¹Tを使う人のため、くつろぎながら仕事ができる場所に

空間設計のうえで難しかったことはありますか?

杉山:H¹T浦和の場合は他のオフィスと比べて床面積が少なかったので、限られたスペースをどう活かすのかに頭を悩ませましたね。

サテライトオフィスで収益を上げようと思うと、できるだけ多くのワークスペースを確保し、一度に多くのワーカーが利用できるようにすべきです。しかしそれは我々が目指すヒューマンファーストタイムの考え方とは異なります。限られた空間の中でも、個室ブースを設けたりや複数人で利用する会議室を用意したり、利用できる席の種類にバリエーションを持たせ、幅広い人が居心地よく感じてもらえるようにしました。

また、空間を最大限活用するため、オープンスペースの天井はあえて貼らずに開放感を感じられるようにしています。逆に、個室は天井を貼り、落ち着いて作業に没頭できるようにしています。メリハリがついているのは他の店舗とは違うところかもしれません。


(オープンスペースの天井の様子。あえて壁は貼らずに間接照明で明るくしている)

H¹T蒲田にも、他の店舗との違いなどあれば教えてください。

小田桐:オフィスっぽくないデザインをあえて取り入れたいなと思い、通常は住宅や結婚式場などに使われるヨーロッパ風のモールディングを、オフィスに入ってすぐ目に入るように配置しているのは他の店舗にはないこだわりだと思います。


(オフィスに入ってすぐ、目が行く場所にあるモールディング)

また、家具にもこだわっていて、とくに椅子は座り心地がよく、張地の色も他の店舗とは微妙に違うものを使っています。店舗それぞれのデザインによって家具も一つひとつ違うので、ワーカーの方々には自分に合ったものを見つけてもらえるとうれしいですね。


(H¹T蒲田のオープンスペースに採用されている椅子。店舗によって違う椅子が用意されている)

H¹T浦和とH¹T蒲田では、それぞれどんなユーザーの利用を想定しているのでしょうか?

杉山:浦和はどちらかといえばベッドタウンとして親しまれていて、居住地が多く立ち並んでいる街です。そのため、バリバリ働くというよりは、家の近くで落ち着いた心持ちで仕事がしたいという方を想定しています。そのため、内装の色味はグレーやベージュなどの比較的ニュートラルな色を採用していますし、照明も暖色を使い、落ち着いた雰囲気を演出しています。

また、働く女性が会社でも家でもない、第3のワークプレイスとして活用することも想定しています。そこで、私自身の感性も活かしつつ、女性の好みに合うデザインを心がけています。細かいですがトイレを男性用と女性用に分けるなど、女性が使いやすいような機能面での工夫も施しています。

小田桐:H¹T蒲田は駅前で人通りが多く、賑やかな場所にあります。また、都心からのアクセスがよく、神奈川と東京をつなぐ中間地点のような場所でもあります。そんな立地から、前もって予約して訪れるよりは、仕事帰りや取引先との打ち合わせ前後に「ちょっと使ってみようかな」と利用される方が多いと考えています。

都心の喧騒に少し疲れたなと思ったり、暑い中ずっと外にいて涼みたいなと思ったりしたときに立ち寄り、ほっと一息つきながらも仕事ができる空間づくりを目指しました。先ほどもお伝えしたように、ワーカー一人ひとりの好みや用途に合わせたワークスペースを設けているのに加え、ドリンクサーバーを用意し、リラックスできるようにしています。


(利用者は無料でドリンクサーバーが使え、コーヒーを飲みながらリラックスできる)

オフィスが多い街ではありますが、あえてH¹T蒲田を使いたいと思ってもらえるようにしたいと思っています。会社のオフィスとはまた違う、くつろぎながら仕事ができる空間がテーマです。

型を決めず、利用者にとっての心地よさを形にし続けたい

お二人は今後もH¹Tの設計を行うとのことですが、新しい店舗を設計する際意識したいことがあれば教えてください。

杉山:何がヒューマンファーストなのかは世の中の状況や時代の流れによって常に変化していくものだと思っています。だからこそ、型を決めず、ワーカーのニーズを捉えながらどんどん新しい空間づくりを行なっていきたいです。

小田桐:同感です。自分自身でも利用しながら、気づきを得て、利用者目線での空間設計を行なっていきたいですね。ワーカーにとってどんな空間なら快適に仕事ができるのか、を一番に考えることはブラさず、よりよい空間づくりを行っていければと思います。

杉山:今後も、郊外を含め、新しいサテライトオフィスを展開していく予定です。スピード感を持ちつつも、目に見えないヒューマンファーストを形にしていければと思います。