リモートワークでのコミュニケーションに「ザッソウ」という提案

2020.04.07
インタビュー

新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、緊急事態宣言が延長されました。ウイルスの封じ込めに成功し、真に事態を収束させられるのがいつになるのか、誰にも読めない状況になっています。普段オフィスで仕事をしていたワーカーの中には、慣れないリモート業務でストレスを感じたり、パフォーマンスが落ちたり、さまざまなお悩みが生まれていると思います。なかでもお互いの顔が見えなくなったことでコミュニケーションが難しくなったという声を多く聞きます。

実際のところリモートワークでのコミュニケーションに、何か課題はあるのか、あるとすれば、その解決方法はなんなのか。今回は、オフィスを廃止し現在全社員がフルリモートで働く株式会社ソニックガーデンの代表取締役社長であり、社内コミュニケーションのあり方について書籍の出版もされている倉貫 義人氏にお話を伺いました。

【プロフィール】
倉貫 義人
株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長
大手SIerにて経験を積んだのち、社内ベンチャーを立ち上げる。2011年にMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを設立。月額定額&成果契約で顧問サービスを提供する「納品のない受託開発」を展開。全社員リモートワーク、オフィスの撤廃、管理のない会社経営など新しい取り組みも行っている。著書に『ザッソウ 結果を出すチームの習慣』『管理ゼロで成果はあがる』『「納品」をなくせばうまくいく』など。
ブログ https://kuranuki.sonicgarden.jp/

リモートワーク体制への移行で働きやすさに加え、生産性もアップ

まず、事業内容について教えてください

株式会社ソニックガーデンではシステムの受託開発を行なっています。「納品のない受託開発」を謳っていて、税理士や弁護士の先生方のように顧問として会社に入り、定期的に打ち合わせをしながら一緒にシステムを作っています。

リモートワークを導入されているそうですが、改めてどんな体制なのか教えてください。

オフィスを廃止し、全社員にフルリモートで働いてもらっています。社員は42名(2020年2月現在)で、18都道府県にまたがり、各地で働いてもらっています。2011年の会社設立当初はオフィスがあったのですが、2016年の6月頃からオフィスを完全撤廃しました。リモートワークへ切り替えたことで、経営として一番アドバンテージを感じているのは採用と離職率の改善です。

採用面でいうと、世の中的にエンジニアの人材不足が叫ばれる中、安定してエンジニアの採用ができている状態です。転職される方はだいたい30前後が多いのですが、皆さん結婚や出産、育児などのライフステージの変化に伴い、20代の時のように都心で長時間働くのが難しいと仰います。そういった背景で、地元で育児を行いながらも働きたいと、リモートワークを勤務ができる弊社に応募してくださいます。

離職率の話でいうと、移住や引越しをしても変わらずに仕事ができるので、今のところ住居や移動の問題で離職した人は社内で0人です。例えば先日、香川で働いていた女性プログラマーが旦那さんのお仕事の都合で千葉に引っ越すことになりましたが引越しをした次の日から普通に働いてくれていましたね。

また、リモートワークを導入したことで生産性が高まった実感もあります。我々は業務上複数人でアイデアを出し合う必要があり、しょっちゅう打ち合わせをします。だからオフィスで働いていた時は会議室がなく、困る場面もありました。ある程度大きな会社になるとよくある状況なのではないでしょうか。会議室がないから打ち合わせの時間をずらすなんてナンセンスだと思っていました。

それがリモートワーク体制への移行に伴ってZOOMなどテレビ電話ツールを導入したことで、いつでも自由に集まって会話ができるようになりました。

また、トラブルが発生し、緊急対応が必要になった時でもすぐに集まれるため助かっています。そういう意味ではコミュニケーションはむしろ、リアルなオフィスで働いていた時よりも活発になったのではとすら思いますね。

もともとオフィスがあった中、完全リモートワーク体制に切り替えたとのことですが、スムーズに移行できたのでしょうか?

2016年以前から段階的に、ペーパレス化やリモートワーカーのためのテレビ電話導入など行なっていたので、比較的スムーズに移行できましたね。

一方で、実際に私自身がリモートワークを試す中で、コミュニケーション面においては不安を感じました。特に会社のオフィスで開かれている会議に自宅からテレビ会議で参加した際、その場にいる社員同士で盛り上がっている中に入っていくのは難しく、疎外感を感じました。これは改善しなければと思いましたね。

チームのパフォーマンスを上げる「ザッソウ」

そもそも、成果を上げるためにはどのようなコミュニケーションのあり方が理想なのでしょうか?

一般的に仕事をする上でのコミュニケーションといえば報告連絡相談の「ホウレンソウ」をよく聞くのではないでしょうか。ただ、この考え方自体は30年も40年も前からあるもので、カレンダーやチャットなどのツールにより情報の伝達能力が高まっている現代においてはマッチしないのだと思います。わざわざ報告や連絡のために会議をするのは時間がもったいないのではと思うのです。

一方、ホウレンソウのうち、相談だけは会話が必要になってくるのではと思っています。報告や連絡は過去の話ですが、相談だけは未来の話で、相談相手とのインタラクティブなやりとりがないと成立しないものだからです。

とはいえ相談には相手との信頼関係がなければうまくいきません。普段から会話をしていないと、困ったときに相談するのは難しいものです。また、相談にはスキルも必要で、唐突に「相談があります」と上司に伝えても必要以上に身構えさせてしまいますし、かといってなんでもかんでもフランクに相談するのは、相手にとって煩わしいのではと気が引けます。

そこで重要になってくるのが雑談です。雑談とは、大雑把に言ってしまえば挨拶や立ち話などホウレンソウ以外の会話全般のことです。なんでもない話や趣味の話の場合もあれば、仕事の悩みについての場合もあります。何も目的がないし、必ずしも結論を出さなくていいのが雑談の特徴です。我々はこの雑談を推奨していて、雑談から入っていつの間にか相談になっているくらいがちょうどいいと思っています。そんな、雑談兼相談を「ザッソウ(雑相)」と名付け、社内でみんなが使う言葉にしています。

それによってマネージャがチームメンバーそれぞれがどんな悩みを抱えているのか把握しやすくなり、問題が起きてから対処することよりも、そもそも問題が起きないように事前に手を打っておくことができるようになったりします。また、わざわざ会議を設定しなくてもプロジェクトが前に進むようになるので、生産性も上がります。

ザッソウは、いろんな人と話し合い、クリエイティブなアウトプットを出す必要がある会社はもちろんのこと、チームで働いているどんな企業でも必要なものなのだと思います。

リモートワークでも「ザッソウ」が活発になる仕組みはどう作る?

ザッソウをリモートワークでも生み出すためには何をすればいいですか?

我々はエンジニアで、自分たちでツールを生み出すことができるので、ザッソウできる場として仮想オフィスのツールを作りました。

出席や欠席状況がわかるようリアルタイムでPCを介した映像が映るようにしたり、個々人に専用のチャットスペースを設けて、外からチャットを介して話しかけられるようにしたりしました。この機能のおかげで今PCの前にいるのかどうか迷ったりせず、また誰に対しても、チャットを使って気軽に話しかけることができますし、面白そうな話をしているチャットがあれば混ざることもできます。


(仮想オフィス「Remotty」のインターフェース。中央部には参加者の状況が画像で表示され、画像は2分ごとに更新される。右部は社内で交わされている雑談や相談の様子が流れる。)

とはいえ、リモートワーク体制にスムーズに切り替えるためには、最初から専門的なツールを入れるよりは徐々にできることを増やしていくのが良いと思います。オススメはテレビ会議から始めることです。僕らも色々なツールを自作したりしていますが、結局会議や会話をするときはテレビ会議のツールを使っています。

導入までのハードルが低いわりに、ミーティングがものすごく楽になり、生産性が上がります。いざ導入となると細かい調整が必要なので各企業の状況に合わせて試行錯誤しながら取り組むと良いのではと思います。オススメは、PCを一人一台用意し、スピーカーではなくイヤホンを使うことです。

新しいツールを入れるのには抵抗感があり、なかなか導入できない企業もあるかと思いますが、一度やってみるとその楽さに感動し、戻れなくなるケースがよくあります。まず最初にやってみることが大事だと思います。

リモートワークは攻めの姿勢で導入すべし

最後に、リモートワーク導入を考えている企業の担当者にメッセージがあればお願いします。

恐らく、時流的に新型コロナウイルス感染症の対策や東京オリンピック開催に伴う通勤の混雑対策、介護離職対策などある種必要に迫られてリモートワークを検討している企業さんが多いのではないかと思います。

ただ僕は、リモートワークはむしろ生産性を上げるために必要な仕組みとして検討すべきだと思っています。我々も、完全リモートワーク体制にしているのは、優秀な人材の採用や離職を抑えることに加え、生産性を高める目的が大きいです。

そんな攻めの姿勢で取り組んできたからこそ、上手くいったのだとも思っています。一部の遠隔地の人のためのサポート体制だと、利益を受けたい人と、利益を提供したい人の対立構造が発生します。しかし会社の生産性を上げるという共通のゴールを置けば、同じ方向を向いて一丸となって取り組めるので、成功の可能性が高まると思うのです。

リモートワーク導入を検討する際、懸念されるコミュニケーション難化の問題は仕組みや、ゴールの設定次第では解決できる問題です。チャレンジしていない企業は検討しても良いではと思います。