H¹TLAB 働き方改革最前線 #03 育児と仕事の両立、なぜ難しい?

2020.08.03
イベントレポート

H¹Tでは人生経験シェアリングサービス『another life.』とタイアップし、働き方改革の最前線で活躍するゲストとこれからの働き方について考える『H¹T LAB~働き方改革最前線~』を定期開催しています。

第三回目のイベントでは「育児と仕事の両立、なぜ難しい? 共働き世代の幸せな働き方を考える」をテーマに、女性・ママ目線の商品企画・PRや女性活躍支援にまつわる研修講師などを務める株式会社MaVie(マヴィ)代表取締役の志賀祥子さん、働き方をリデザインする一般社団法人Work Design Lab代表理事であり複業家の石川貴志さんを迎え、共働き育児の働き方や組織との関係についてお話を伺いました。

新型コロナウイルス感染防止のためオンラインで開催された本イベントの様子をレポートします。

【ゲスト】

  • ・志賀祥子さん(株式会社MaVie代表取締役)
  • ・石川貴志さん(一般社団法人Work Design Lab 代表理事・複業家)

【モデレーター】

  • ・新條隼人(株式会社ドットライフ代表取締役社長)

育児で減る「時間」の作り方

「育児と仕事の両立を阻む課題」から話していきましょう。まずは育休の現状について聞かせてください。

志賀:育休や時短制度はあっても、職場環境が適応していないという場面をいろいろな規模の会社で見てきました。例えば時短勤務なのに毎日残業をせざるおえない環境で、保育園にも同僚にも頭を下げながら働くママがいたり。役職のある女性が育休復帰したら時短勤務になるとともに役職が外され、その分お給料もカットされたり。

今はママだけではなくパパも含めて子育て支援の制度を導入する会社も増えているとは思いますが、まだまだ少ないと感じます。

またそうした会社に転職したいと思っても、見つけるのはすごく難しいと思います。そもそも、子どもがいる中で転職活動すること自体のハードルが高いですし。就業後に面接に行けないので、お休みをとって1日にまとめて面接を受けるなどはよく聞く話ですよね。

石川さんは、お子さんが生まれてからの変化が大きかったと伺っています。

石川:特に一人目が生まれたときは大きかったですね。初めての子育てに取り組む中で、大きく2つの変化がありました。

1つは「チーム」。子どもが生まれて、1人じゃできないことが多くなります。私も妻も長時間働くスタイルだったんですが、子どもが生まれると物理的に時間がなくなります。我が家は僕が朝子どもを保育園に送り、夜は妻が迎えに行っていました。そのため、僕は朝早く仕事に行くことができなくなり、妻は夜遅くまで仕事ができなくなって。長く働くことで周りに勝つというスタイルが、効かなくなりました。でも仕事のスタイルを自分1人では変えられないんですよね。

そこで必要になるのが、もう1つの「関係性の再定義・再チューニング」。働き方は個人ではなく、個人と組織の関係性の話。会社側にも変わってもらわないといけません。例えば、お互い10対10で仕事をしていたとして、こちらが10のうち8しかできなくなったら、相手には10だったのを12に増やしてもらう。そんな風にチューニングができないと、育児休業する側にばかり負担がかかってしまうんですよね。

会社もですが、夫婦の関係性のチューニングが一番大変だと思います。例えば妻の仕事が忙しくなってきて、ある種妻がフォワードにいるのであれば、僕はディフェンスに下がって子どもを見るというように。逆も然りです。そうやって関係性を柔軟に変更してくれるパートナーシップが築けないと、子育てしながら働くのはなかなか難しいかなと思います。

志賀:うちは子どもが生まれる前からお互いに1人の時間を重要視していました。産後も「今日は1人の時間をどうぞ」と自然とお互い意識的に作っていましたね。例えば産後は3時間ごとに授乳がある中で、30分だけでもカフェへ行くとか。それだけでもすごくリフレッシュになるんです。

女性って、最初は全部自分でやらなきゃいけないと思ってしまう節があると思うんです。でも1つずつでも手放してみると、「なんだこれも頼んで良かったんだ」と気が楽になって、頼めるようになっていきます。私も最初は手放せなくて大変でしたが、そうやってだんだんと頼れることができて、パートナーシップが確立できていきました。


株式会社MaVie代表取締役 志賀祥子さん

1人の時間を持つことについては、夫婦間で事前に相談されていたんですか。

志賀:妊娠中からしていましたね。先輩ママから時間が本当にない!という話を聞いていたので、夫婦でお互いにひとり時間を作れるようにしたいねと

石川さんはお子さんが3人いらっしゃる中で、時間を作るために気をつけていることはありますか。

石川:家族との時間を楽しみたいんですけど、やっぱり少しは1人の時間も欲しいんですよね。なので僕らも、1人の時間を意識的に作るようにしています。

あと、大人1人で3人の子どもを見るより複数の大人で複数の子どもを見る方が楽なんです。地域のパパ会に入っているので、そこでの集まりに子どもを連れて行っていますね。その間に妻は仕事をして、帰宅後にバトンタッチ。このバトンタッチが重要です。


一般社団法人Work Design Lab 代表理事・複業家 石川貴志さん

快適なワークプレイスとは

せっかくなのでこの時期ならではのお話を伺いたいのですが、緊急事態宣言中の過ごし方の変化や気づきはありましたか?

石川:物理的なハード面の変化と、気持ち的な変化がありました。物理的な変化としては、自宅のオフィス化が進みました。背もたれの高いイスやPC台を買って、自宅を快適な働く環境にするため投資しましたね。

気持ち的な変化としては、私はほとんど家にいたので、ぐっと仕事と暮らしが近づきました。緊急事態宣言下では、妻の方が仕事柄外に出ることが多かったんですね。

そうしたときに、1人の時間がなかなか取れず集中できなくなってしまって。もちろん子どもが嫌いなわけじゃないんですけど、すごく重要な会議や電話をしているときに、「パパー」と部屋に入ってくることもあって。家の近所のアパホテルが1日2,500円ほどで借りられたので、たくさん会議が入っていた時に1週間利用したのですが、それはすごくよかったです。これして「働く」と「暮らす」が融合する中で、東京で働くべきなのか?とは考えるようになりましたね。

志賀:私もやはり暮らしと仕事が密接になりましたね。子どもとずっと一緒にいられるのはすごく幸せなのですが、石川さん同様1人の時間がないという問題はありました。うちの子はまだ2歳で、「ちょっと待っててね」は全然通用しないので。

家の中で仕事をするスペースと、1人になる時間を試行錯誤して作ってました。日中のオンラインミーティングやセミナーの予定を夫と共有して、「この時間は子どもを見ててね」とお互い協力して。仕事が途切れ途切れになるのはパフォーマンスが良くないので、企画を考えたり資料を作ったりする作業は、集中タイムを設けてやるようにしていました。

お二人は、家と外と、どちらで仕事をしたいタイプですか。

石川:僕は気分によって働く場所を毎日変えたいタイプです。集中したいときもあれば解放されたいときもあるので、そのときの気持ちによってワークプレイスも選択できるといいですね。

志賀:私もリモート歴が長いので、気分で変えたり、業務内容によって変えたりしますね。緊急事態宣言のときはカフェも休みで行くところがなかったので、ベランダに出ていました。朝、子どもが起きるまでベランダで仕事をすると、すごくリフレッシュできて。日中は子どもも一緒にベランダでおままごとをしていましたね。そうやって家の中でリフレッシュするためのハックを見つけながら過ごしていました。

働き方の変化に、会社の理解を得るには

次、会社の話にいきましょう。共働き子育て世代のみなさんにとって、働きやすい、キャリアアップしやすい組織の要件とはなんでしょうか。

石川:これは僕も一番関心があるテーマです。やはり組織のカルチャーが一番重要だと思います。大きい会社だと多様性を重視しようと経営者が経営戦略に組み込んだとしても、その経営戦略が現場まできちんと落ちていないケースもあるんですよね。育休・産休をしっかり根付かせて働きやすい職場を作ろうとしても、直属の上司が早退する人に「チッ」と言った瞬間終わりだと。組織全体が腹落ちしているかが大事だと思います。

志賀さん、いかがでしょう。法人向けに女性活躍実現のための研修やコンサルティング、また復職前後のママ社員のコーチングサポートもされているので、そうした話題を人事の方から相談されることもあると思うのですが。

志賀:復職前後の女性社員と上司のコミュニケーションの課題は非常に多いです。直属の上司によって、働きやすいか否かが発生するのはよくないですよね。例えば育休復帰後の働き方の希望があっても、「これを言ったら評価が下げられてしまうんじゃないか」という社員側の葛藤があります。一方で人事や上司は、良かれと「今までどおり働くことは難しいんじゃないか」と先入観でフィルターをかけてしまう。

なので、会社の中で自分はどういう働き方をしていきたいとか、どうやったらパフォーマンスを出せるかといった、状況の共有や提案をしていくのが大事だと思います。またそのような発信をしやすいような環境を会社側が作っていく努力も必要です。

会社の理解を得るための伝え方や工夫はありますか。

石川:会社って、経済的なメリットが得られると思うと、意外と動かしやすいと思います。あとは、急激に変化させるのは難しいので、緩やかに変わっていくプロセスを組むのがいいと思います。

その中で兆しを感じるのが、複業ワーカーの活用プロジェクト。社内にない人事スキルを持っている複業ワーカーをパートタイムで活用するもので、固定費をかけずに社内にないスキルを獲得できるメリットがあります。そういった形でフルタイムじゃない人と一緒に成果を出さないといけない状況になればチームワークの形も変わってくると思います。さらには評価基準やチームの在り方も変わってくる。そうすると時短勤務のママやパパの働きやすい環境づくりに繋がると思います。そういう意味でも、複業ワーカーを活用しながら組織変革を進めるのも面白いんじゃないかなと。

志賀:働くママのコミュニティを運営していて、いろいろなママの働き方の話を聞きますが、会社とのリレーションが築けている方は、周囲に自分の仕事の状況や子どもの状況を自ら発信して、理解を得ているなと感じます。

遠慮して言いづらいと思うこともあるのですが、勇気を出して言ってみることで、実はうまくいくことがあります。ママ側からもそうですけど、同僚や上司の方からも言いやすい環境づくりやそういった場を設けることが必要だと感じます。


石川さんが行う企業や個人の新しい働き方を実践・推進するプロジェクト

マネジメント対象のメンバーが悩んでいることを知りたくない上司はいないですからね。

志賀:そうですね。石川さんもおっしゃっていたように、会社にとって合理的で経済的に回る仕組みを作れるのであれば、柔軟な働き方は思っているよりも許容されると感じます。新型コロナで働き方も変わってきているので、より提案しやすい雰囲気にはなっているのかなと思います。

今後の働き方はどう変わっていくと思われますか。

石川:新型コロナによるテレワークの浸透で空間から解放され、通勤にかかる移動時間からも解放され、仕事のための空間や時間をどう選んでいくか考える機会が増えていると感じています。

志賀:弊社で働く女性のキャリアの変化についてアンケートを取ったのですが、「これからは時間と場所に捉われない働き方をしたい」という答えが一番多かったです。「そのために自分のスキルの可視化をしたり、スキルアップのために資格取得の勉強を始めたりしました」と、実際に行動にうつしている人もかなりいて。なので、これからいろいろな働き方が出てくる中で、自分にとって理想の働き方は何だろうとか、育児と仕事の両立とか、プライベートと仕事の割合について、改めて自分の価値観を見つめ直すいい時期だなと思っています。

育児のしやすい環境を自分でつくる

続いて、「育休を取りにくい雰囲気はありましたか?もしあったらそれを乗り越えたエピソードを聞かせてください」とのことですが、いかがでしょうか。

志賀:私自身はなかったですが、周りから「育休を取るなら戻ってくる場所はない」と言われた知人の話を聞いたことがあるので、中にはあるのだと思います。乗り越えるためには、自分の将来やりたいことに向かって土台を整え、基盤を作っておくことが大事だと思いますね。私自身も出産前に柔軟に働けるビジネスを確立しようと独立しました。それを産後、子どもが小さい中でゼロからやるのはかなり大変だと思うので、自分の時間を自由に使えるうちに、できることを目一杯やっておくのがいいと思います。

次の質問は「共働き夫婦が自分らしいキャリアを描くには、どんなパートナーシップを目指せばいいですか。特に男性側のリアルな意見や本音を知りたいです」ということで、石川さんいかがですか。

石川:夫婦でお互いにどういう風にキャリアアップしたいか、何にチャレンジしたいかということについて会話をしておくことが必要だと思います。例えばうちの妻は、元々人材系の仕事をしていたので、人材育成や家庭教育に関心を持っていて。社会人になってから児童心理学系の大学院に行きたいと言われても、そうした背景がわかっていると、理解しサポートできます。変化に合わせて夫婦というチームが進化していくことが重要だと思います。

僕から志賀さんに質問してもいいですか?女性を応援するコミュニティをされていますが、どんな悩みを相談されることが多いですか。

志賀:子どもが生まれたら勝手にママが仕事をセーブするとパパ側が思っていたという話は、意外と多いですね。「あれ?フルタイムで復帰するの?」みたいな衝突があるとか。あとは、パパが家事代行などの外部サービスを使うことに反対するという話もまだ聞きます。そういった価値観の違いや乗り越え方は、事前にきちんと話しておいた方がいいなと思います。


志賀さんが運営する働くママコミュニティ『Mrelatioins』(※現在はオンラインで開催)

最後の質問で、出産育児の経験者が少ない会社を改革するポイントをお聞かせください。

石川:今回のテーマは出産育児のための環境づくりがメインですが、本質は会社の組織改革の話なんですよね。会社はやっぱり、社長じゃないと変えられないと思うんです。それ以外で変えられるのは、先ほども言ったように経済合理性があるケース。そのメリットをきちんと決裁者に届けられれば、「そうか、経済的に得になるなら変えよう」となって話は早いんです。でも、正しいから変えるというのは、難しいと思います。だから出産育児経験者が少ない会社で、自分1人で改革をしようとするのは、厳しいでしょう。会社を心地いい場所に変えるよりは、会社と外とのバランスを取りながら、うまく心地いい場所にしていく。もしくは、今の会社であまりにも子育てしにくいのであれば、会社を変えることも含めて検討した方がいいかなと思います。

ただ、僕も女性の復職をサポートするNPOに関わっていたんですけど、子どもが生まれた後はすごく転職しづらいんですよ。そのために予防退職と呼ばれる、事前に転職してから結婚・出産という段取りをされる人もいらっしゃいます。でもこれって会社の採用面で考えると、経済的な損失でもあるなと思っていて。そうした全体を見られる合理的な目で組織を作っていくべきなのですが、そこの目線がない人に目線を作れというのは難しい話なので。きちんと全体を見られる会社がどんどん経済合理性を高めて、多様な人が集まり、事業がクリエイティブであるということを示していくことで、自然と合理的な目線を持たない会社が淘汰され、世の中が変化してくんじゃないかと思っています。

志賀:私もまったく同じですね。やはり育児経験者が少ない会社の意識改革をするのは大変だと思います。組織を改革するのは時間もかかることなので。その時間や労力を使ってまで、その会社で子育てとの両立をするべきなのかというところをシビアに考えた方がいいのかなと思います。例えばその長い交渉期間に、心身ともに健康にいられるのかも重要なポイントです。子どもにとっては、ママの笑顔と健康がすべてだと思います。

私は妊娠・出産をした時はフリーランスだったのですが、お子さんがいる経営者の場合はすごくご理解いただき、話もスムーズでした。一方でそうではない場合、例えば「切迫流産の危険があり在宅で安静にしないといけない」ということがどれだけ正しく理解されるのかは難しいと感じましたね。経営者である以上、女性を雇用する以上、会社として最低限知るべきことってあると思うんです。そういった働きかけを弊社もそうですが法人側へ働きかけていくような立場も必要だなと感じています。

ありがとうございます。