郊外のサテライト型シェアオフィスでテレワーク。人材不足、勤務時間減に対応する選択肢

2020.02.14
インタビュー

働き方改革のための一施策として注目されるサテライトオフィス。企業が集まる都心部での運営が主流だが、H¹Tは郊外も視野に入れ、オフィスを展開している。その郊外拠点の運営パートナーを担うのが、郊外型サテライトオフィス「Trist」を運営する、尾崎えり子氏だ。なぜテレワークがもとめられるのか、働き方改革の成功の可否を分けるものはなんなのか、お話を伺いました。

【プロフィール】
尾崎えり子
Trist代表。株式会社新閃力 代表取締役。早稲田大学法学部卒業後、経営コンサルティング会社を経て、子ども向け教育事業会社に転職。第2子出産をきっかけに退職し、2014年に千葉県流山市で創業。2016年サテライトオフィス「Trist」をオープンさせ、都内からの企業誘致に成功する。メディア掲載、受賞歴多数。8歳と6歳の2児を育てるワーキングマザー。

郊外型サテライトオフィス運営のノウハウをH¹Tに展開

まず初めに、Tristの事業内容について教えてください。

Tristは千葉県流山市でシェアサテライトオフィスを運営しています。ただオフィスとしての場所貸しだけでなく、テレワークのための教育プログラムを行い、さらにテレワークで働きたい人と企業をつなぐ採用支援を行なっています。また、Tristを中心に形成した地域コミュニティを活用して、企業から依頼を受けてヒアリング調査を行なったり、サテライトオフィス運営で培ったノウハウを活かして、企業に対するテレワーク導入のための教育・コンサルティング業務も行なっています。

「仕事」「家族」「地域コミュニティ」の3つが緩やかにつながる生き方を目指して活動しています。私自身、結婚して他県から流山市に移り住み、頼れる人がいない中で大変な状況を経験しました。子ども2人が熱を出し、夫が海外出張で不在だったときには、このまま3人で倒れてしまうのではという思いもしました。そんな実体験からも、働きながら地域コミュニティを自然に築いていける場所が、真に幸せに生きるために必要だと考えたのです。

H¹Tとどのように関わっているのでしょうか。

「Trist」はH¹Tの郊外拠点のパートナーとして、サテライトオフィスの設計や運営に関するアドバイスを行なっています。具体的には大きく次の2つをお伝えしています。1つ目は、地域とのつながり方。働きながら地域コミュニティを形成するためには、半径100メートル以内の人たちとつながりを持つことがとても重要です。どうすればそれが実現できるのか、過去蓄積してきたノウハウを提供しています。

2つ目は、行政機関との関わり方。H¹Tができることで、その地域に雇用が生まれ、企業を誘致できたりします。その影響力は大きく、故に自治体と連携し、地域の再開発という大きな目標に向けて動くことが可能です。私たちは行政から依頼をいただくことも多いため、その経験から色々な自治体を巻き込み、事業を進めるノウハウをお伝えしています。


そもそも、H¹Tと関わり出したきっかけはなんだったのでしょうか。

郊外型サテライトオフィスを作ることを通して、地域コミュニティを作りたいのだという思想に共通点を感じたことがきっかけでした。地域コミュニティ作りは、大変で実は非常にコスパが悪いんです。人材の育成やコミュニティ作りに投資をし、長い時間かけてようやく人が自然と集まるようになり、その人を採用するために企業が集まり始め、それでやっと利益を生み出すベースができます。

コミュニティづくりは企業からすると、即時性のある費用対効果が望めない面から、なかなか参入に踏み切れない現状がありました。ただ、これからの時代、地域コミュニティを形成しながら郊外でも働ける環境を作ることの価値を理解してくれたのがH¹Tの設計を行う野村不動産さんでした。

まだまだ開発の余地がある郊外で、人が働きやすい環境を作ることができれば、マンションや商業施設など新しい建物の建設が求められるようになります。野村不動産さんとしては、サテライトオフィスの運営単体で利益をあげるというよりも、それを起点にデベロッパーとしてのビジネスに価値を転換できるという発想があり、だからこそ本事業に踏み込めているのだと思います。


企業が存続し続けるために、テレワークという解決策

改めて、なぜ今、テレワークが必要とされているのでしょう?

テレワークが必要となる背景には、日本が直面している課題があります。2030年以降、労働人口は100万人ずつ減少すると言われ、労働生産性も、1970年以降、先進国7か国の中で最下位です。人手不足倒産の件数も増えています。

人が減る一方で働き方改革が進み、働く時間も減らさなければならない。企業にとっては、四面楚歌の状態です。今までは、企業側が会社に合う人材を選ぶ形でしたが、これからは企業側が人材に合わせる必要があります。そうなると、すでに他社で働いている、遠方である、といったあらゆる条件を度外視して、会社に力を貸してくれる優秀な人材を探す必要があるのです。

またテレワークというと、子育て世代のための制度という認識を持つ企業も多いです。しかし実は、介護世代のための制度でもあることを、重要視しなければなりません。これから先、40代50代の社員が介護に従事する、大介護時代が目前に来ています。決裁権を持つ社員が介護のために離職することになれば、企業にとって大打撃でしょう。マネージメント層がテレワークを活用できる仕組みを、いち早くつくらなければいけません。

テレワークは、今の流行りだから、という理由で導入するものではありません。企業が10年後20年後生き残るためには、優秀な人を雇い続けなければならない。そのためにテレワークという解決策があるのです。どの手段を選ぼうかと迷っている時間はありません。

働き方改革の講演に参加する企業には、テレワーク導入に成功した企業の手法をそのまま取り入れようとする企業があります。しかしそれでは、結局自社ではできないという認識になりかねません。なぜなら、本来は経営計画や求める人材など、企業の風土に合わせて、テレワーク導入の手法はカスタマイズするべきもの。決まった成功パターンは存在しないため、早い段階でトライアンドエラーを繰り返し、自社の中でどう機能するかを実証できた会社こそ、勝ち残っていくのだと考えています。


自宅ではなく、サテライトオフィスで働く意味

サテライトオフィスで働くのと自宅で働くのとでは何が違うのでしょうか?

長時間座っても楽な椅子があり、いろんな資料を並べられる机があって、途切れないWi-Fiがあって、といった仕事に集中するための環境があることです。テレワークを推進する中で、実は在宅では集中できない人が多いことが分かってきました。家事や来客など、仕事以外の情報を完全に遮断するのが難しく、仕事の生産性が上がらないという現実があるためです。自宅で働ける制度があったとしても、そこが働く環境に適しているとは限りません。だからこそサテライトオフィスが有効です。

さらにTristもH¹Tも、オフィスにはオープンスペースを設けています。コミュニケーションが、ワーカーにとって必要だからです。一人で作業していると、大抵3~4日で誰かと話したいという欲求が出てきます。人との会話が、リフレッシュやモチベーション維持につながるのです。一人で悩んでいたことを、誰かに聞いて簡単に解決できる場合もあります。精神面でも作業効率面でも、コミュニケーションは必要だと言えるでしょう。


郊外型サテライトオフィスで、日本の危機に立ち向かう

今後、H¹Tで行う取り組みを教えてください。

今後H¹Tでは、地域コミュニティとワーカーをつなぐ仕掛けを展開できたらと考えています。例えばTristでは、お笑い芸人にその橋渡し役を担ってもらう実証実験を行っています。具体的には、芸人さんが地域の飲食店をSNSで紹介することで、地域の活性化につなげる。同時にその店をワーカーに紹介する。すると、ワーカーと地域の人がつながる、という輪ができるのです。芸人さんにとっても、地域の祭りに呼ばれるなど、人前でネタを披露できるメリットがあります。こうした実績をH¹Tにも導入したいと思っています。

私は働くママのための救済事業がしたいわけではありません。個人の幸せはもちろん大切ですが、これをやらなければ日本は潰れてしまうんだという危機感の方が大きいです。限られた人材のレベルを上げ、その力を皆で分け合うことをしなければ、日本経済の成長を維持することはできません。

だからこそ、Tristのビジネスモデルがあります。しかし、私の身体が一つであるがゆえにそのビジネスを広く展開できず、日本を変えるところまで至っていません。そこで、野村不動産のように、同じビジョンを持つ企業とタッグを組み、このモデルを全国に広めていきたいと考えています。もっと多様な人が働ける社会に、日本を変えていきたいですね。