全社フルリモートに移行したChatwork社に聞く、働き方改革のヒント

2020.09.09
インタビュー

現在、新型コロナウイルス感染症への対策として、企業には早急なリモートワーク体制構築が求められています。担当する人事・総務の中には、何から始めればいいのかと頭を悩ませている方も多いでしょう。そこで今回は、緊急事態宣言後に全社員のフルリモート体制を整えたChatwork株式会社を取材。

Chatwork社はビジネスチャットツールを提供する会社であり、日本の会社全体の働き方を変えるには、まず自分たちの働き方からと、さまざまな取り組みを行ってきました。Chatwork社はどのようにしてリモートワーク体制に移行したのか。同社人事部マネージャーの内田良子さまにお話を伺いました。

【プロフィール】
内田 良子
Chatwork株式会社 人事広報本部 人事部 マネージャー
銀行員からファーストキャリアを初め、その後小売・流通系の会社で幅広く人事業務を経験。大企業にてダイバーシティ推進チームリーダーとして、働き方改革や女性活躍・外国籍人材の採用などに取り組む。2019年1月よりChatwork株式会社に参画。コーポレートミッション「働くをもっと楽しく、創造的に」の実現をすべく、制度設計や人材育成・組織強化に取り組んでいる。

制度づくりの土台となる「トッププライオリティ」を定める

まず、御社の現在の働き方について教えてください。

原則は全社員が在宅でリモートワークしています。

もともと、社員140名程度のうち7~8名はフルリモートで働いていました。会社としては、時間や場所にとらわれない働き方を推奨していて、本人の能力や業務的に問題なければリモートワークをしても構わないと考えていたんです。なかには、鹿児島や岐阜に在住のため、フルリモートを前提に入社した社員もいました。主にエンジニア職の方が多かったですね。

そんな体制でしたが、緊急事態宣言後は、コロナの感染対策のため、強制的に全社員にリモートワークへと切り替えてもらいました。


Chatwork株式会社 内田 良子さん

御社はこれまで、積極的に社員満足度にこだわった制度づくりに取り組まれており、社員満足度1位に輝いたこともあります。新型コロナウイルス感染症の影響で、制度作りの方針に変化はありましたか?

変化が求められている社会だからこそ、会社のビジョンである「すべての人に、一歩先の働き方を」を実現しなければと改めて強く考えるようになりました。それに伴って、まずは自分たち自身が一歩先の働き方を体現しなければと、組織体制や制度づくりを意識するようになりましたね。

具体的にはどのようにして新しい制度を作っているのでしょうか?

まず最初に行ったのは全ての行動の指針となる「トッププライオリティ」を作り、全社で共有することです。その中身は大きく2つの軸で構成されていて、一つは「社員の心身の健康」、もう一つは「新型コロナウイルスの拡散を抑制すること」です。

トッププライオリティを原則にしつつ、リモートワーク体制を構築するための制度を設計していったということでしょうか?

おっしゃる通りです。具体的には「オフィスへの出社を禁止」「取引先やお客さまのところへの訪問は禁止し、オンライン面談を提案」「災害対策本部より毎週明けに会社としての勤務体制方針をチャットで共有」など、状況に合わせていくつも取り決めを作りました。

ただ、例外も認めるようにしていて、例えばどうしてもオフィスに来なければならない事情がある場合は、マネージャーに申請してもらうようにしています。承認が得られれば出社も可能です。あまり細かく制度を設計しすぎず、原則をもとに各自で判断してもらうようにしています。

リモートワークになりさまざまな問題点が浮き彫りになった

リモートワーク体制に移行して、具体的にはどんな問題が生まれたのでしょうか?

まず最初に感じたのは、社員が不安を抱えるようになっているということです。とくにマネージャー陣は顔が見れなくなったメンバーたちのメンタルが大丈夫か、不安を感じていました。

また、面談を重ねるなかで、4月から6月にかけて一気に増えた新入社員たちが会社の雰囲気をつかめず「自分たちが一体どんな組織で働いているのか」を掴めないまま仕事をしていることにも気がつきました。どの会社も、それぞれの会社らしい雰囲気は必ずありますよね。リモートワークだとそれが、どうしても分かりづらくなってしまっていたのです。

コミュニケーションの場を作り、不安の解消と相互理解を促す

問題の解決のためにどのような取り組みを行ったのでしょうか?

まず、社員のメンタル面のケアのため、人事に気軽に1on1を頼める仕組みを作りました。誰でもGoogleフォームで申請すれば、今感じている不安を人事に相談できますし、マネージャーが自分のチームメンバーを指名して、1on1を受けさせることもできるようになりました。希望する場合は産業医の面談も受けられます。

また、メンタルヘルスマネジメント検定の内容をもとに、メンタルを自己管理するための知識を全社朝礼などで共有することも始めました。厚生労働省の調査によると自分自身にかかっているストレスを自覚している人は、実際にメンタル不調を起こしているうちの58%しかいません。つまり、40%程度は自分のストレスに気づいてないのです。そこで社員には、自分で自分のメンタルの不調に気付く力を身につけてもらいたいと思っているのです。

メンタル不調の前兆としてどんなことがあげられるのでしょうか?

朝起きれず遅刻してしまう、休んでしまうなどがあります。また、気分が乗らずやる気が出ないこともメンタル不調のサインである可能性があります。

メンタルケアの取り組みを行ってみて、その効果はいかがでしたか?

マネージャーの不安の解消につながったのではと思っています。人事が代わりに1on1を行うことでマネージャーの業務負担の軽減にもつながりました。また、新卒社員など社歴の浅い社員からは、不安を吐き出せて、すっきりしたという反響をもらっています。社員からすると、会社に自分の不安を把握してもらえている安心感があるのではと感じています。

新入社員が会社の雰囲気を掴みづらい問題については、その解決のため何に取り組んだのでしょうか?

いくつかの新しいコミュニケーションの場作りを行いました。

例えば「ウェルカムランチ」。オンラインで新入社員が社長と一緒にランチを食べながら気になることを聞けるという制度です。またこれまでにも存在していた「メンターランチ」をオンラインでも行っています。これにより、新入社員がメンターと一緒にオンラインでランチを食べる場合、一人1400円まで補助が出ます。他にも、参加は任意ですがRemoを使用したオンラインランチを毎日開催するなど、コミュニケーション不足による不安を解消するため、いろんな仕組みを作りました。


「Chatwork Live」を利用して、オンライン飲み会の開催も。

リモートワークでも生産性を落とさない環境を整える

さらに「一歩先の働き方」を実現するため、始めたことはありますか?

在宅でも、オフィスにいるときと同じように働ける環境を整えることです。

具体的には、家で働く場合に必要になるものを調査しつつ、元々あった制度を作り直しました。新しくなった制度はその名も「一歩先の働き方支援制度」。元々、「最新デバイス購入支援制度」といって、社員が最新のデバイスを買うのを金銭的に支援するための制度でしたが、それを現在の状況下にあわせて作り直した形です。制度の内容は、家の中の働く環境をオフィスと同じぐらいのレベルにするため、必要なものの購入費用を会社が負担するというものです。


リモートワークに不慣れな社員が気軽に質問できるようなチャットを作ったそう。

さらに、制度ではありませんが、リモートワークになっても仕事の効率を落とさないよう、KPIなどの目標数値をはっきり定めるようにもしました。数字にすることで、みんなで管理することが可能になり、どこで止まっているのか気づけるようになり、業務が滞るのを防げます。

新しい働き方を作る際は「何のために」を設計する

最後に、働き方改革に取り組む人事・総務の方にメッセージをお願いします。

働き方改革は、会社の課題に紐付けて設計してほしいなと思っています。コミュニケーションを円滑にしたい、労働時間を減らしたい、など具体的な課題をはっきりさせなければ、せっかく改革を行っても意味がありません。逆に、会社の課題がわかれば、何をやらなければいけないかは自然と出てくるのかなと思います。

しっかりと課題に結びついた制度設計ができれば、経営陣に認めてもらいやすくなりますし、実際にその制度が適用されるメンバーも協力してくれます。


Chatworkにはスタッフ発案のユニークな制度が多数。

また、これからの時代は、時間や場所にとらわれない働き方を設計することが必要になってきているのだと思います。

特に、場所については、どこが何の作業をするための場所なのかを再定義する必要があるのだと思います。コミュニケーションを取るための場所、ただただ作業をこなすための場所、といった具合にです。しっかり設定できれば、社員も動きやすいと思います。

場合によっては、カフェやサテライトオフィスを活用するのもいいですね。弊社ではもともと営業のメンバーが、移動時間を短縮するために使っていました。家族がいて、家では仕事ができないという人にも便利ですよね。

総じて、事業計画に基づき、何のための働き方改革なのかを設定しながら新しい制度を作って行くのが良いのではと考えています。我々も「一歩先の働き方」を体現できるよう、挑戦を続けていきます。